労働条件セルフチェックリスト ⑥健康診断

2021.05.24

労働条件セルフチェックリストの第6回目。今回のテーマは「健康診断」です。

健康診断の規定は安全衛生法に定められています。健康診断といっても様々な種類があり、「一般健康診断」と「特殊健康診断」「じん肺健診」「歯科医師による健診」に大別することができます。今回はその名の通り最も一般的な「一般健康診断」について書いていきたいと思います。「一般健康診断」にもいくつか種類がありますので、受診させる対象者や会社で取り組むべき事項について確認していきます。

なお、心の健康診断ともいえる検査として「ストレスチェック」があります。常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、医師、保健師等による毎年1回、定期的に心理的な負担の程度を把握するための検査を実施することが事業者に義務付けられています。しかし、身体を対象とした健康診断とは異なるため、今回は割愛します。

 

【一般健康診断の種類】

一般健康診断には以下の種類があります。

〇雇入時の健康診断(安衛則第43条)
〇定期健康診断 (安衛則第44条)
〇特定業務従事者の健康診断(安衛則第45条)
〇海外派遣労働者の健康診断(安衛則第45条の2)
〇給食従業員の検便(安衛則第47条)

会社の規模にかかわらず、対象となる労働者を1人でも雇用している会社は、受診させる義務があります。それぞれの健診の対象者や実施時期が決まっていますので、要件を確認して確実に受診させましょう。

 

雇入時の健康診断

対象労働者:常時使用する労働者
実施時期:雇入れの際

新しく労働者を雇入れする際に実施する健康診断です。対象労働者は常時使用する労働者となっていますが、具体的には以下(1)と(2)両方の要件に該当する労働者が対象となります。

(1)正社員や無期契約社員など、期間の定めのない契約により使用される者であること。有期契約社員など、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。
(2)その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。

上記の(2)に該当しない場合であっても、上記の(1)に該当し、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施するのが望ましいとされています。

検査項目は安衛則第43条で定められています。なお、入社前3か月以内に健康診断を受診し、法令で定められた検査項目を含む健康診断の結果を証明する書面の提出があれば、雇入時健康診断を省略することができます。

 

定期健康診断

対象労働者:常時使用する労働者(次項の特定業務従事者を除く)
実施時期:1年以内ごとに1回

一般に健康診断と言えば、この定期健康診断を指すことが多いと思います。年に1回定期的に実施します。対象者は雇入時の健康診断とほぼ同じです(次項の特定業務従事者を除きます)。

検査項目は安衛則第44条で定められており、一部の検査項目については、それぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略することできます。

 

特定業務従事者の健康診断

対象労働者:多量の高熱又は冷熱な物体を取り扱う業務及び著しく暑熱又は寒冷な場所における業務、深夜業を含む業務など、労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者
実施時期:対象業務への配置替えの際、6か月以内ごとに1回

特定の業務に従事する労働者に対する健康診断です。もっとも一般的な対象者は深夜業に従事する労働者と思われます。深夜業を含む業務とは、業務の常態として深夜業を1週1回以上または1ヶ月に4回以上おこなう業務をいいます。また、対象労働者の要件について、雇入時の健康診断で記載した要件(1)の「1年」の部分が「6か月」となります。

検査項目は安衛則第45条で定められています。

 

海外派遣労働者の健康診断

対象労働者:海外に6か月以上派遣する労働者
実施時期:海外に6か月以上派遣する際、帰国後国内業務に就かせる際

6か月以上の海外派遣を行う場合、出国時と帰国時に受診させる必要があります。検査項目は安衛則第45条の2に定められています。

 

給食従業員の検便

対象労働者:事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者
実施時期:雇入れの際、配置替えの際

食堂や給食の業務に従事する場合に必要となります。

 

【健康診断実施後の取組事項】

会社は健康診断を実施するだけでなく、実施後に下記の取組次項を行わなければなりません。特に、産業医の選任義務のない中小企業においては、(2)の医師等からの意見聴取や(5)の保健指導への対応が難しい場合があります。そのような場合は、無料で保健サービスを利用できる地域の産業保健センターの活用をお勧めします。

 

(1)健康診断の結果の記録・保存
健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、保存しておかなくてはなりません。一般健康診断の個人票の保存期間は5年です。

(2)健康診断の結果についての医師等からの意見聴取
健康診断の結果に基づき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聞かなければなりません。

(3)健康診断実施後の措置
上記2による医師の意見を勘案し必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じなければなりません。

(4)健康診断の結果の労働者への通知
健康診断結果は、労働者に通知しなければなりません。

(5)健康診断の結果に基づく保健指導
健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。

(6)健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
一般健康診断では、定期健康診断と特定業務従事者健康診断の結果は、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。(常時50人以上の労働者を使用する事業者が対象になります。)

 

時折、健康診断を受診したくないという労働者についてのご相談があります。健康診断は労働安全衛生法に定められた会社の義務であり、労働者は健康診断を受診する義務があります(安衛法第65条第5項)。なお、会社が指定した医療機関ではなく、別の医療機関で受診した健康診断の結果を証明する書面を提出することも可能ですので、何らかの事情で会社指定の医療機関で受診できない場合は、書面提出も考えられます。

 

会社には安全配慮義務があり、労働者を健康な状態で勤務させる義務があります。また労働者においても、勤務できる健康状態を維持する自己保健義務があります。健康診断を規定する労働安全衛生法は労働基準監督署の所管であり、是正指導の対象となりますが、法律上の要件を満たすことだけでなく、健康診断を通じてより働きやすい職場環境を整備することもこれからは大事な視点になるのでは無いかと考えます。

 

社労士は、健康診断に関するアドバイスも行っておりますので、悩まれた場合はぜひご相談ください。