給与明細書について

2019.08.13

突然ですが、皆さんは給与明細書のどこを見ていますか?

残業手当、総支給額、差引支給額あたりでしょうか。自分が会社員だったころはそうでした。
給与計算を業とする給与計算アウトソーサーに勤務していても、自分の給与明細書となるとこんな感覚でした。

でも、この給与明細書には様々な法令やルールが詰まっています。会社個別のルールは就業規則や賃金規程に定められていますが、その根底には多くの法令が存在しています。

給与明細書に記載される内容に直接的に関係する主な法令は以下の通りです。
・労働基準法
・最低賃金法
・健康保険法
・介護保険法
・厚生年金保険法
・雇用保険法
・所得税法
・地方税法
・上記の各法律にかかる政令、省令、通達

なんだか、いろいろありますね。

その他にも間接的にかかわる法令や、明細書上からは見えていないのですが会社が給与計算をするうえで確認しなければならない法令というものもたくさんあります。
・子ども・子育て支援法
・労働者災害補償保険法
・年齢計算ニ関スル法律
・国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律
・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
…などがあります。

これらは会社に関係なく全事業所共通のルールですが、手当の項目からは個々の会社の方向性を読み取ることができる場合があります。例えばどのような手当を設定しているかによって、会社がどこを評価しようとしているのかを伺い知ることができます。また、金額情報以外に勤怠情報が記載されている場合も多いかと思います。休日出勤日数や残業時間数、有給休暇の残日数などが記載されていれば、自身の働き方を考える資料にもなります。給与明細書はそれらの結果を個別に集約した書類と言えます。

そもそも、給与明細書を作成して交付する根拠はどこにあるのでしょう。

なんとなく、労働基準法っぽいのですが、明確に給与明細書の作成義務は明示していません。ただし、給与を口座振込みをしたら支払に関する計算書を交付することという通達があります(平成10年9月10日基発530号)。

ちなみに、法律が古いままなので、現金支給が原則的取扱いで、口座振り込みは例外的取扱いとなっています。労働者の同意を得ることが例外的取扱いの条件なのですが、実務上は給与振込口座を会社に届出る書面が同意書を兼ねている場合が多いと思われます(労働基準法施行規則7条の2)。

また、所得税法ではもっと明確に給与明細書の作成義務を明示しています(所得税法231条第1項)。

最近は給与明細書をメールで交付したり、WEB明細書に切り替える事業所も増えてきています。配布手間、印刷コストの削減や誤封入などのリスク低減など、会社側のメリットも大きいのですが、受け取る側にも明細書を紛失するリスクの低減や過去明細書の確認が容易になるなどのメリットがあります。なお、電子給与明細書の交付についても、改めて労働者の同意が必要になります(所得税法231条第2項)。

毎月同じことの繰り返しのような給与計算ですが、実はいろいろと確認事項が多くて常にアップデートが必要な作業です。給与計算の基礎となる勤怠管理や集計作業にも社内社外のルールが多数存在しています。こちらはローカルルールも多く、実態を把握するため現場とのコミュニケーションスキルなども必要になってきます。人事労務担当者は、裏方としてこれらの業務を通じて皆さんの給与支給を陰から支えています。

給与明細書には様々な法令やルールが詰まっていると書きましたが、そこに現われているのは会社の示す方向性であり、ひとりひとりの働き方の結果です。たまには就業規則を確認してみるのも良いのではないかと思います。

次回給与明細書を受け取る際には、その裏にはこんなことがあるんだなと少しでも思い出してもらえればと思います。