感染症と労務の考え方について
2020.02.24
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染地域が拡大し、連日感染者数や感染経路の報道が続いています。感染症が流行した際、企業としてこの状況にどう対処すればよいのでしょうか。労務の視点で感染症に対する考え方をまとめてみました。
就業制限の義務と対象範囲
就業制限の根拠としては、労働安全衛生法第68条と労働安全衛生法施行規則第61条がその法的根拠となります。病者の就業制限について規定されており、定められた感染症の感染が確認された場合には就業を禁止しなければなりません。
就業制限の対象となるのは感染症予防法の定義で一類から三類に分類された感染症の患者又は新型インフルエンザ、指定感染症、新感染症の患者又は無症状病原体保有者となります。
今回の新型コロナウィルス感染症は指定感染症となっており就業制限の対象となりますが、感染疑いや家族の感染などは就業制限の対象には含まれません。また、季節性のインフルエンザなども就業制限の対象ではありません。
休業手当の支払義務
就業制限の対象となるか否かで休業手当の支払い義務に差が生じます。
今回の新型コロナウィルス感染症の場合のように就業制限により休業させる場合は一般的に使用者の責に帰すべき事由による休業に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。
一方、感染疑いの場合や家族が感染した場合で予防的に休業させる場合には休業手当の支払が必要となります。季節性インフルエンザなどについても就業規則等に休業の規定があったとしても、休業手当を支払う必要があります。
もし、新型コロナウィルス感染症に感染し休業手当が出ない場合、要件を満たせば会社が加入している健康保険から傷病手当金を受給することができます。
職場の安全配慮義務
会社としては職場の安全配慮義務の観点からも、感染者の就業制限はもちろん、感染疑い者や家族感染者が出た場合には慎重な判断が求められることになります。従業員の健康を守ることはもちろん、職場での感染拡大は事業の継続に影響を及ぼしかねず、店舗や取引先への感染拡大となれば営業自体が停止を余儀なくされる恐れもあります。ただし、過剰な反応はかえって混乱を招く恐れがありますので、正確な情報を入手したうえで冷静な判断をする必要があります。
そのため、感染リスクを低減させるためにできることを普段から職場ごとに検討しておく必要があると考えます。テレワークや時差出勤などの制度が整備されていれば、感染リスクの回避策として活用することを検討してもよいでしょう。仕事の調整手続やスケジュール、優先順位の変更など、休業者が出た場合の対応手順を予め整理しておくことで、突発的な人員不足が生じた際の臨時的対応も想定可能となります。また、休業手当や傷病手当金は通常満額の給与補償ではありませんので、生活への不安から感染の申し出を躊躇してしまう可能性もあります。会社としての方針や取組を情報発信することで不安を和らげることができますし、相談しやすい職場環境を醸成することにも繋がります。
今回の新型コロナウィルス感染症に限らず、季節性インフルエンザや風邪であっても、普段から休むべき人をきちんと休ませることができる環境を整備することも、会社が果たすべき重要な役割です。
就業制限や休業手当に目が行きがちですが、まずは流行している感染症に関する正確な情報を入手し、職場で共有することが落ち着いた行動と判断に繋がります。そのうえで感染疑いがある人が相談をしやすい環境を整え、必要があれば迅速に医療の支援を受けられるように橋渡しをすることが大事だと思います。
企業向けに厚生労働省のQ&Aが公開されていますので、こちらも参考にしてみてください。
厚生労働省―新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html