労働条件セルフチェックリスト ①労働条件通知書
2021.04.12
前回の記事で労働条件セルフチェックリストについて書かせていただきましたが、それぞれの項目についてもう少し詳しく説明したいと思います。
初回は①労働条件通知書についてです。
労働条件通知書はなぜ必要か?
労働条件通知書は、会社が労働者を雇い入れる際に必ず交付することになっています(労働基準法第15条)。
ではなぜ、会社は労働条件通知書を交付しなければならないのでしょうか。
その目的は、労働者の保護にあります。労働者が労働力を提供し、対価として賃金を支払うという雇用契約は口頭でも成立します。しかし、労使の関係は雇用される側の労働者が不利な立場となりやすく、口頭契約ではその約束が反故にされる可能性もあります。そこで、労働者保護の法律である労働基準法は、会社に労働条件通知書の交付を義務付けているのです。
誰だって「どこで、どんな仕事をして、いくらもらえるか」が曖昧なまま働くのは不安ですよね?会社もせっかく入社してもらったのに、後から話が違うなどの無用なトラブルは避けたいですよね?
そこで、働く前に最低限の決め事は書面で通知することになっているのです。なお、労働者からの希望があれば、FAXやメールでの通知も可能です。
ちなみに、似たような書面である雇用契約書の作成締結は義務ではありません。先ほども書いた通り、雇用契約は口約束でも成立してしまいます。ただ、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた書式を作成し、両者で合意する形式を採用している会社もあります。
労働条件通知書の記載事項
では、具体的にどんな事項を通知するのでしょうか。記載事項は、厚生労働省の省令で定められています(労働基準法施行規則第5条第1項)。下記に記載事項を列挙しましたので、ぜひ確認してみてください。なお、「⇒」は労働者側から見た場合の大まかなポイントです。会社側はこれらを明示する必要があります。
①労働契約の期間に関する事項
⇒いつからいつまで働くの?定め無しなら定年まで?
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
⇒契約更新はあるの?ないの?更新の基準はなに?
③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
⇒どこでどんなことをするの?
④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
⇒何時始まりで何分休んで何時終わり?お休みやシフトはどういう決まり?
⑤賃金(退職手当及び⑧に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
⇒給与はいくらで、何日締めの何日払い?この給与は将来上がるの?
⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
⇒どんな場合に退職や解雇になるの?
⑦退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
⇒退職金がある場合はもらえるの?
⑧臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
⇒賞与など毎月払いじゃない賃金はもらえるの?
⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
⇒自分で費用負担するものがあるの?
⑩安全及び衛生に関する事項
⇒健康診断や会社の安全衛生はどうなってるの?
⑪職業訓練に関する事項
⇒仕事をするうえで必要な資格や技能の習得訓練はあるの?
⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⇒怪我や病気をしたときの補償はどうなってるの?
⑬表彰及び制裁に関する事項
⇒どんなことをしたら褒められたりペナルティを科されるの?
⑭休職に関する事項
⇒どんな場合に中長期のお休みとなるの?
どうでしょうか。これらの事項を曖昧なままにしておくことは、トラブルの原因ともなりかねません。逆を言えば、会社はこれらを明示することによって労働者に安心して働いてもらうことができ、トラブルの未然防止に繋げることもできるということです。
なお、①から⑥までは必ず記載が必要な事項です(⑤のうち、昇給は除きます)。それ以外は、決まりがあるなら記載する必要があります。なお、就業規則よりも不利な条件を記載した場合はその部分が無効となり、就業規則に規定の条件が適用となります。「本人もそれで良いって言うから」は、通用しないので要注意です。
ただ、実際に労働条件通知書の作成をしようと思うと、書き方がわからなかったり現状の働き方をどう表現したら良いか悩んだりすることがあります。現実にはいろいろな働き方や待遇があり、それらすべてが記載例通りに書けるものではないからです。
社労士は、労働条件通知書作成についてのアドバイスも行っておりますので、悩まれた場合はぜひご相談ください。